終幕……臨海学校〜コーヒーは海の味〜 台本

※台本をそのまま掲載しております。

<梅雨>

いー01 凡人。凡人。そう、凡人。
玖渚01「ボンボン?」
いー02「金持ちっぽくて何かちょっとその言い方は嫌だな……」
玖渚02「月一に出る子供に大人気な定期雑誌の名前かもしれないじゃん」
いー03「凡人が由来でボンボンって言ったんじゃなかったのか玖渚?」
玖渚03「若しかしたら盆踊りが由来かもしれないよ。まあ、そんな話はいいけれど。いーちゃん何を落ち込んでるのさ」
いー04「落ち込んでるって、そんな」
玖渚04「落ち込んでるね。僕様ちゃんには分かるよ。いーちゃんが周りの海に入水自殺をしたい位、落ちぶれてるってね」
いー05「あのう、はげまそうとはしてくれないんですか?」
玖渚05「周りが天才でいーちゃんが凡人だから何だって言うの?誰にも必要とされない天才より僕様ちゃんに必要とされるいーちゃんだよ」
いー06「落ち込んでる理由が分かってるんだったら落ちぶれてるとか言うのやめろよ…っ!」
玖渚06「日本語って難しいよね」
いー07「母国語のせいにするか玖渚」
 そこで玖渚はまたリズミカルにキーを打ち始めた。
 会話はお仕舞いらしい。
 仕方なく席を立って、飲み物でも貰いに行こうと部屋の扉に手をかけた。
いー08「ああそうそう。お前何か飲みたい物、あるか?」
玖渚07「太平洋以外の、海水」
いー09 ここは太平洋側なのでそんな意地の悪い事言われても不可能だった。


<tamsi01>
赤神01「それはそれは。玖渚さんはお茶目ですね」
いー10「お茶目で済めばいいんですが……時々本気で言ってますからね、たちが悪い」
赤神02「ですけど、佐代野さんであれば海水の味くらい、作れるんじゃ御座いませんこと?そうだ、佐代野さんを呼んできましょう。ひかり」
いー11「いえ、いいです。幾らなんでもアイツの我侭ですから。イリアさんがそんなに気にかける事はありません」
赤神03「そう……私もちょっと、興味があったのですけれど」
いー12 海水の味なんてどこまで行っても海水の味だ。残念ながらぼくは東シナ海とインド洋の味の区別何てつかないし、ついて得する訳でもない。イリアさんだって分かる訳ではないだろうに、残念そうだった。
ひかり01「では、玖渚さんにはこちらから何かご用意させて頂きますね」
いー13「ええ。あ、でもアイツ飲むか分かんないんで適当でいいですよ」
ひかり02「分かりました。適当ですね」
いー14 くすりと笑って言う茶目っけを持ち合わせるひかりさん。流石メイドだ。
「あの、コーヒー有難うございました。おいしかったです」
ひかり03「そうですか?有難うございます。コーヒー淹れるの、ちょっと苦手なんですよ」
赤神04「私が飲まないものね」
ひかり04「はい」
いー16「でもコーヒーを好む天才は多そうですよね。脳に与える影響、とかなんとかで」
姫菜01「コーヒーで閃く天才なんて所詮その程度だよねえ」
いー15 のそり、と起き上がってひらひらと手で自分を仰ぎながら言った。
「……真姫さん」
いー17 いらっしゃったんですか、と続けようとしたのだが。
姫菜02「いらっしゃったよ。ふーう。コーヒーが題材ならともかくコーヒーで閃く天才なんていうのはねえ、コーヒーでドーパミングしてるようなものでしょ」
いー18「それはつまり」
姫菜03「水晶玉とタロットを使う占い師はアテにならないってことだね。
 あーあ。ひかりちゃーん。喉かわいちゃったなー。後頭痛いからお酒が飲みたいきぶん」
いー19「朝からおさ」
姫菜04「二日酔いは酒飲むと治るって知らない?」
いー20 途中から心を読む読まない関係無くなってる気がするのは、気のせいだろうか。
ひかり05「朝に飲むお酒、ですか…はい。ではアルコール度数の成るべく少ない清酒でどうでしょう?」
姫菜05「いいねー!熱燗がいいなー」
いー21「晩酌のノリになってますよ」
姫菜06「メイドにお酌。メイドにお酌」
いー22 聞いちゃいねえ。
 っていうか、メイドにお酌。うらやましい。
姫菜07「すけべ」
いー23「えっ。いや、そんな。名誉棄損ですよ」
姫菜08「ああ、そうだねごめんごめん。発言の自由は認められているよね」
いー24「発言すらしていません!!」
ひかり05「あ、あの……私は特に気にしませんから…」
いー25「ひかりさんそう言われると余計みじめです…!」
ひかり06「えっ、あ、すいません、そうだ私お酒持ってきますね!」
 走って過ぎ去っていくひかりさん。
 ぼくの信用とか、大丈夫だろうかとちょっと不安だ。
赤神05「コーヒーの話ですけれど」
いー26「はい?」
赤神06「コーヒーを飲んでも私たちは何も思いつきませんけれど、コーヒーを飲んで天才的な事を思いつくのであれば、それは天才ではないですか?」
いー27「ああ、そうですね……」
姫菜09「それは違うよ。コーヒーに頼らなきゃいけない天才は、カカオの木以下だ」
いー28 そこで有無を言わさない発見をして、自分の背中からごそごそと空き瓶を取り出すと、ぴちゃんと一適だけお酒を頬張って真姫さんは横になってしまった。
赤神07「そういうものでしょうか」
いー29「さあ……天才が言うんですから、そうなんじゃないんですか。凡人には理解出来ないですよ。
 じゃ、ぼくは部屋に戻ります」
赤神08「玖渚さんによろしくお願いします。では夕食に」
いー30「はい」
</tamsi01>

「あー……」
 窓拭きをしているあかりさんを、廊下で見かけた。
「こんにちは」
あかり01「……こんにちは」
いー31「ご苦労様です」
あかり02「有難うございます」
いー32 それだけだった。
 何とも虚しい。
 だが通り過ぎようとすると、呼び止められた。
あかり03「あの、玖渚さんの所にお飲み物をお持ち致しました」
いー34「ああ、有難う御座います」

<梅雨>

「玖渚」
玖渚08「んに?なんだよいーちゃん。」
いー33「……パソコンは飽きたのか」
玖渚09「うん」
いー35「ベットでごろごろしててもロクな人間にはならないぞ」
玖渚10「いーちゃんのように?」
いー36「そう、ぼくのように」
玖渚11「冗談。いーちゃんは素晴らしい人間だよ」
いー37「どの辺りが」
玖渚12「全てだけど、強いて言うなら首の後ろのほくろかな?」
いー38「ほくろで人を判断するな!……え、ちょっと待て。そんなんあんの?」
玖渚13「あるよ。自分じゃ見えない?そうだよね、見えないか。うんうん」
いー39「知らなかったな……。自分で分かんない物が自分の体にあるなんて、気持ち悪い
玖渚14「そお?そんな事言ったら人ゲノムなんてまだ解析しきってないじゃん。
 まあ、ほくろの話はウソだからどうでもいいけど」
いー40「嘘かよ!!」
 …所でお前、何飲んでんの?」
玖渚15「砂糖水」
いー41「……それは又、海水から劇的な変化で」
 リクエストされたあかりさんも相当困っただろうな……。
玖渚16「砂糖水、飲む?」
いー42「いらない。気持ち悪くなるし」
玖渚17「ふうん」
いー43 そうして最後の一滴まで飲み干すと、玖渚は言った。
玖渚18「そういやいーちゃん、すけべなんだってね」
いー44「誰から聞いた?」
玖渚19「あかりちゃん」