第三幕……休戦・竹取り山にて 台本 ※台本をそのまま掲載しております。 <BGM 門限過ぎて起こられたけど…> 萩原01 ざくざくざくざく。 萩原子荻は、連れを一人連れて果てしなく深い竹林を歩いていた。 「お、お兄ちゃん?」 双識01「何だい、子荻ちゃん?」 萩原02「竹の子、無いですねえ……」 双識02「ふむ。そうだね。子荻ちゃん、第一この山には竹の子はあるのかい?」 萩原03「え?え、ええ。これだけ竹がありますし、あると思います」 双識03「思います?下調べは?」 萩原04「していません…。まずかった、でしょうか」 双識04「いや」 萩原05「え?」 双識05「下調べをする余裕もなく、お母さんの事だけを考えて無我夢中に一番近かったこの山に来たんだね。君は竹の子取りの鏡だ!」 萩原06「そんな……私はただお母さんが好きなだけですっ」 双識06「うんうん。この位の情熱が竹の子取りには必要だよね。しかし本当に竹ばかりで子供が居ないね。居て子荻ちゃんじゃないか。ううむ」 萩原07「私は竹の子じゃないです……」 双識07「おっとこれはすまない。竹の子の様に可愛らしいと言う意だよ」 萩原08 竹の子と同類にされてもあまり嬉しくなかった。 双識08「これだけ探して見つからないとなると、私の日頃の行いが悪いせいかと疑ってしまうね。 でも私はね、魚は食べても肉は食べない、肉を食べても野菜は食べない神様も見習うべき善人なのだから、悪い行いを探しても思いあたる事柄が一つとして無いんだ。どう思う子荻ちゃん?」 萩原09「つまりお肉食べるんですね」 双識09「食べるさ」 萩原10「……そうですか」 双識10「個人的には兎が好きかなあ。鶏肉っぽくて。ふむ、話が脱線したね」 萩原11 兎は少なくともスーパーでは買えない類の代物なので流通経路が一瞬気になったが、そろそろ話に付き合いきれなくなってきた。 萩原12「あの、ふと思ったんですけれど」 双識11「どうしたの?子荻ちゃん」 萩原13「若しかしたら…私の日頃の行いが悪いせいなのかもしれません…」 双識12「はうあっ!?」 萩原14「そう、私のせいでお母さんもきっと具合が悪くなっちゃったんです……。ですから、きっとお兄ちゃんも私と一緒に居ると竹の子見つかんないんです。 お兄ちゃん、私も勿論探しますけれど竹の子を見つけるのがお母さんのため。ここからは別々に探しませんか?」 双識13「そうか……そうだね……」 萩原15 よし。これで別れられる。 私は思わず心躍らせた。 「じゃあ、私はこっちを探します。お兄ちゃんはあっちを探して下さい」 双識14「嫌だ」 萩原16「えっ!」 さっきの思わせぶりは何だったのか…!? 「お、お兄ちゃんそんな、酷いです」 双識15「嫌だ」 萩原17「我侭言っちゃ、嫌です」 双識16「惜しい」 萩原18「惜しい…!? ……え、えーと。 お、お兄ちゃんの、ばかっ!!もう知らない!!」 双識17「ごめんよ子荻!子荻は何も悪くない、竹の子が見つからないだって!?それは姿を現さない竹の子が悪いんだ!!ちょっと待っててね、竹の子の一つや二つや三つや四つ、あっという間に持ってくるからねー!!!」 萩原19「え、そんなにいらな」 双識18「ええ?竹の子、いらないのかい?(嫌そうな声で)」 萩原20「わああお兄ちゃん竹の子そんなに沢山!?有難う!し、子荻うれぴい!きゅいい!」 双識19「はーっはっはっはっは。ちょっと待っててくれよかぐや姫ちゃーん!」 (走り去る音) 萩原21「……。 私いつからかぐや姫になったのかしら……。 でもこれであの人と別れられるわね。さて、一旦先生の所に……」 双識20「ただいま!」 萩原22「っお、お帰りなさい。早かったですね」 双識21「うん。いやあ大変だったよ。竹がまるで悪鬼悪霊私の道筋を塞ぐように茂っていてね……このときほど私は竹を憎んだ事は無かった」 萩原23 こんな事で恨まれてはいっそ竹が可哀想だった。 双識22「さあ、これを持ってお帰り!」 萩原24「え……?こんなにいっぱい、いいんですか?」 双識23「ああ。お母さんに食べさせてあげなさい。大丈夫。私には病気のおっかさんがいないから、私の分まで持っていっていい。 うん、恩返しに私の家の前に木の実とか置いてってくれると最高だけれど、魚屋さんから魚を盗むのは世間では泥棒と誤解されてしまうから、しなくてもいいよ」 萩原25 それは誤解では無く本当に泥棒だ。盗むとか言っている時点で。 かぐや姫の次はごんぎつね、彼はこういう昔話系統が好きなのだろうか? 「お兄ちゃん嬉しいこん」 双識24「狐はこんこんって鳴かないけどね」 萩原26「そ、そうですか」 双識25「でもたどたどしく不自然に動物語を使うのもまた可愛いのでよしとしようか。さて、所で子荻ちゃん」 萩原27「何ですか?」 双識26「お母さんの病院どこ?」 萩原28「えっ?先程言ったじゃないですか」 双識27「ああ、間違えた。何号室だい?」 萩原29「201、ですけれど。お、お兄ちゃん?」 嫌な予感が背筋を走った。嫌な予感は大抵当たってしまう。それは予感では無く無意識の計測で次の展開を弾き出しているからなのだが、つまり当然のように、予感は的中した。 双識28「そう。じゃあ行こうか。」 萩原30「え?え?」 双識29「どうしたんだい?娘の君が場所分からないのか?いやだな私は分かるよ。さあ」 萩原31「わわわわわ私一人で行けますから!」 双識30「いやいや変態に引っかかりでもしたらどうするんだい。君みたいなか弱い女の子が竹の子を抱えて走っていたら大変だよ。変態うはうはだよ」 萩原32「お兄ちゃんじゃないですか!……あ、ごめんなさ、つい本音…いっいえ、心にも無い事が!」 双識31「酷いな私は変態じゃないね。仮に変態だとしても変態と言う名の紳士だよ」 萩原33「そうですか……」 双識32「おや、ギャグ漫画日和は知らないかい?」 萩原34「私、漫画は詳しくないのでちょっと……」 双識33「そうか。残念だなあ」 萩原35 本当に残念がっている。 どうしよう。悩んだ。ありもしない部屋番号をでっちあげてしまった上に今この山を離れる訳にはいかない。考えたあげく、苦しい言い訳をした。 「心配なら、そうだ!メールアドレスを交換しませんか?私、おうち帰ったらすぐ送りますよっ!それならお兄ちゃんも安心でしょう!?」 双識34「それはいい考えだね流石私の子荻ちゃん!!」 萩原36「え、ええ!私のメルアドは…っとこれです!どうぞ。お兄ちゃんから先に送っておいて下さいねー!」 双識35「ああ!」 萩原37「それではお兄ちゃん、本当に有難う御座いました。お母さんもきっと良くなりますよー!!」 双識36「勿論さー!!お母さんと末永く幸せにねー!」 萩原38「はーい!!」 <走る音> (ずぼっ) 「いやああああ!!!」 双識37「子荻ちゃん!?今助けるよー!!」 萩原39「こんな所にトラップ仕掛けたの、誰!?…私よ、もういやあ!!」 |